2022年夏新刊「仄日遡航」後書き
2022年9月11日発行『仄日遡航』の後書き兼備忘録です。
絶竜詩戦争、パッチ6.0、及び本の内容のネタバレを含みます。
書き始めたきっかけ
事の発端は4月、ツイッターでヒカセンの心象風景IDのお話をお見掛けし、いろんな方の呟きを見ていたら自分も書き出しちゃったことにはじまります。
書き始めた直接のきっかけは、4月26日実装の絶竜詩戦争。
自分は攻略に挑めるほどの強さを持っているわけではなかったので、続々聞こえてくる攻略情報やレースの模様を眺め、もしものお話を楽しんでいました。
次々襲い来るえげつないギミック、とんでもない演出。観ているだけなのに本当に本当に楽しくて苦しかったです。
本コンテンツはもしものお話。オルシュファン卿の生存ルートが描かれます。この展開を見て、光の戦士はきっと誰よりも強く、繰り返し彼の生存を祈っていたのだと実感しました。
ゲーム本編でも幾度となく彼の言葉を口にしたり、アイティオンで彼の幻影に力をもらったり、卿を大切に思っていることは分かりきったことでしたが、たとえ彼一人を救うことでその後にどんな状況が襲ってこようとも何とでもしてやるという決意が見えたような気がします。
長い旅路の果てに星を救い、ただの冒険者として再出発した今だからこそ拾い上げることが出来た心の奥底に仕舞いこんだ願い。
きっと今は向き合っちゃダメだ、と仕舞いこんだ想いはたくさんあるんじゃないか。誰にも言えない気持ちや願いはどこに置いたのだろう。
ここで「英雄が隠したもの/記憶」というテーマが出来ました。それだけでは書けないなぁと考えていたところで、心象風景IDを思い出していろいろこねくり回した結果、「英雄の紀行録を冒険する」という軸を作りました。
書きたかったこと
英雄の紀行録にアクセスし、記憶の中を冒険するにあたって、絶対に書きたかったのは「教皇庁」と「ボズヤ解放戦線」でした。
「教皇庁」は本当の意味でこのお話を書き始めるきっかけになったものだったので絶対に外せないシーンでした。
後悔とあの人なりの反逆の意志、それと「英雄に成り果てる」を特に強調するつもりで書いていたものの、骨組みだけ書いて何度も何度も書き直したパートです。
この本は偽典にはなりえない紀行録の物語です。起こったことは変わらないけれど、それでももしもが起こって大切な盟友を護ることが出来るなら自分の記憶にも抗うだろう、と考えた結果、初稿では存在しなかったあの人と卿が押し合いへし合いする展開が出来ました。
きっとあの人は、英雄はオルシュファン卿に生きていてほしかったと願っているし、同時に現実を真っ直ぐに受け入れていると考えています。
「ボズヤ解放戦線」は戦場を駆けまわっていた時期に感じていた遣る瀬無さと、一人で戦況を引っ繰り返す蛮族の英雄を書きたくて仕方がなかったので入れました。
あの戦場は〈エオルゼアの英雄〉という暴力の塊が持つ負の面が全部盛り込まれていると感じていました。解放戦線を終結させるために、要は戦うためだけに呼ばれている。この時期、もはや帝国が絶対的な悪だとは考えていないだろう冒険者に〈英雄〉として戦うことを求める状況。最悪すぎて最高。
丁度、メインクエストの舞台が第一世界だったこともあり、ボズヤには暁のメンバーがほぼ関与していないです。これ以上、人死にを出さないために戦って屍の山を積み上げる矛盾を抱えた英雄の姿は、きっと暁の面々(特に双子や新人君)には見せたくないものだっただろうなぁと考えていました。
実は、紀行録に潜るメンバーはこのシーンに立ち会わせたい人を基準に選んでいます。(クルル先輩は超える力を持っているので最優先で内定していました)英雄の紀行録の中に込められた罪悪感や迷いをベースに、「帝国兵に自分はこう見えているのだろうな」という自嘲が混ざった目線に彼らは立たせられて記憶の中のあの人を見ています。
怒られそうですが「不謹慎な新人君」が書きたかったというのがあります。視点を彼にしたのはこれが理由です。
ゲーム中で彼はたまーーーにデリカシーのない言動をしてしまうことがあり、そういったところも不完全なヒトらしくて自分は好きなので今回の裏テーマとして定めました。
稀代の英雄が原因不明で昏倒、残された時間は少ないのに解決策も不明瞭。状況は最悪なのに冒険を前にしてワクワクが抑えきれない彼が書けて満足です。
この裏テーマが透けているのが教皇庁での一幕。
ずっと会いたかった、ずっと側にいたいと思っていた。たとえ記憶から作り出された幻でも嬉しいと思ってしまった。
この一文、随分前に書いた800文字のやつの7日目「幻でも」のリプライズになっています。まさかこんなに時間が経って新しい意味を付けられるとは思っていなかったので、書き続けてきてよかったです。
なお、最初のエスティニアンからの問いには、単純に危ない方法を執ろうとしていることへの心配と、興味だけで行こうとしているんじゃないだろうな、と釘を刺している意味を含んでいました。信用も信頼もしているけれど大切な相棒のことなので彼も彼なりに必死。
今回の挑戦
一番苦労したのはエーテル学に関する知識の習得でした。作中に散らばっている描写を集めたり、世界設定本を引っ張り出したり、ネットいろいろ調べてみたり……恐らく、実際に書いていた時間と同じくらいの時間をかけて調査・研究していたかもしれません。
特に参考にしたのはセイヴ・ザ・クイーンとソウルサイフォンの解説パートです。記憶に潜る手法やエーテルの説明はセイヴ・ザ・クイーン(シドの記憶に潜っていき、トラウマと戦う展開)、モノに記憶を込めるという術はソウルサイフォン(あとアシエンの記憶のクリスタル)の二つです。
説明が多すぎると面白くないしテンポも悪くなってしまうので、セリフで説明するところ+情景や状況に説明の役割を持たせるところのバランスを特に気にして書いていました。難しかったけれどやりがいがあって楽しかったですし、何よりあの世界の仕組みの理解に繋げることが出来たと感じています。また研究したい!
もう一つ装丁の面での挑戦として、カバーに箔押しを採用しました。
憧れの箔押し!とってもきれいに仕上げていただいて本当に嬉しいです。
本作はある意味、暁月までの冒険の集大成のような区切りの物語なので思い入れもひとしお。記念作品ならばとっておきの挑戦をしよう!と思い立って先人たちの知識を参考に制作を進めました。
最初は空押しにしようかと思って作例を見ていたのですが、サワーゴールドという名前の箔を一覧で見かけ、「アゼムの色だ」となんとなく感じてしまったので今回の色になりました。角度によっては暗くもあり、明るくもなる。ゴールドにもシルバーにも見える淡い色がお気に入りポイントです。本当に素敵に仕上げていただきました。スターブックス様、いつもありがとうございます。
まとめ
14の二次創作を始めた時、冒険者に決まった設定を定めずに書き始めました。
自機という概念を練りきっていなかったということもありましたし、また、キャラメイクが出来る原作だからこそ、主人公は読み手の方の想像に任せることが出来ると信じていたということもあります。最近では設定のある冒険者を描くこともありますが、基本的にネームレス冒険者を書き続けてこの10月で3年になるようです。ふわふわしたスタイルでも物語を書き続けてきたから辿り着くことが出来た一つの終着点なのかもしれない、と振り返って思います。
ここまで続けてこられたのは、物語を読んでくださる皆様のお陰です。いつも本当にありがとうございます。
まだまだ冒険は続きます。書きたいお話もたくさんあります。
いつか冒険を終えて筆を置くその時まで、原作への敬意を持って楽しく書き続けていきたいです。