雨樋

日が落ちる頃に降り出した雨は夜が深まるほど激しさを増して、やがて酷い雷と風とを伴う嵐に育った。窓に好き放題打ちつける雨粒がまだ夜明けとすら言えない時分なのに起きろと喧しく騒いでいる。

重たくて仕方ない目蓋を薄っすら押し上げて窓を見遣ると、外はちょっとしたシャワーより酷い有様になっていた。今夜はちゃんと屋根のあるところで寝泊まりをしていてよかった。きっと何処かで酷い目に遭っているだろう同業者たちに同情と無事を祈る想いを込めて、大きく息を吐きながら体からずれてしまっていた掛布団を手繰り寄せる。

だが、わたが入っているはずの布団がとてつもなく重く動かせなかった。何事だ、と正体を探ろうと身じろぎをすると、暗闇の中から腕らしきものが飛んできて動くことを許してくれない。誰かいる。

普段、野営をすることも多い冒険者稼業故に眠っていても他人の気配には敏感らしい。同衾に気付かないなんて、いくら心地好い宿の寝床でも有り得ないことだ。そうなれば、布団への侵入者は限られてくるだろう。

眠気でうつらうつらし出した思考に答えを手渡すように、知った重さの手のひらが頭の上に降ってきた。まるで幼子をあやすように、一定のリズムをつけて叩くそれは不思議と安心できる。年の功、あるいは遠い過去の経験値だろうか。

安心を享受していると、早く寝ろとばかりに侵入者の腕の中に布団ごと体を引き寄せられる。強引なようでやさしさが見え隠れする仕草はどこか懐かしさを覚えた。

まだ窓の外は酷い有様だ。外界の音から逃れるように、すぐ目の前にあるあたたかさに頬を寄せ、抗い難いほど強くなっていた眠りに身を任せた。