幕間__ある騎士の手記
今や貴重品となった紙を個人的な手記のために消費するのは心苦しいが、今後はこういったことはないのでどうか許してほしい。
さて、これを書いている今は、光の氾濫と呼ばれる大厄災より三十年程が経った頃だ。そして、青年と出会ってニ十年程になる。
故国レイクランド連邦の瓦解後、紆余曲折を経て、私たちは新たな世代が故郷と呼べる場を失わないためにクリスタリウムを創り出した。
当初でこそ厄災以降は決して珍しくない、テントが立ち並ぶキャンプ地だったが、青年の類稀な人望と手腕によって導かれた我らが一丸となって今や『街』と呼べるものが出来つつある。決してこの文章が後々に残ることを考えての記述ではない、念のため。更に防衛機構が完全に稼動を始めてから比較的安全に作業が進められるようになり、今もなお驚くほどの速度で街は大きく、強く、しかし人のあたたかさを失うことなく成長を続けていた。
最近は工芸館の職人たちが生活に不可欠な水路の延伸と改良に精を出している。ただ、あまりに広がりすぎた水路は歩いて一周すると丸一日以上かかる上、迷子が続出したために今後は小舟に乗って必ず水路の全てを記憶している青年を連れて点検をすることになったらしい。
思えば彼も随分落ち着いたものだ。出会った頃の彼はちんちくりんという言葉が絵になったような男だったが、その胸の内に誰よりも熱く、深く、そして強い想いを抱えていることは共に過ごす内にすぐ理解出来た。だが、彼の抱える想い、ここはあえて執念と呼ぶべきそれが彼を押し潰してしまう日が来ないか、私は心配でならない。
どうかこの手記を読んだ者は、無茶ばかり重ねる彼の身を案じてやってほしい。もっとも、私が知る限りは街に住むほとんど全員に彼は見守られているから、その点はあまり心配していないが。
さて、こんなにも長く書くつもりはなかったのだが、歳を取ると話がまとめられなくなって困る。
最後に、私たちのクリスタリウムが彼と、彼の待ち人にとって佳き街で在り続けることを私は願って止まない。
我らと愛する我らの故郷に、クリスタルの導きの在らんことを。