道を照らして

マザークリスタルを破壊する。

私たち三人と一匹は途方もない計画を成すためドレイクヘッドに潜入していた。荒事に慣れているシドもクライヴも横顔には常とは違う緊張が走っているように見える。トルガルも機嫌良く振られていることが多い尻尾を膨らませて、臨戦態勢を崩すことがない。彼らと共にいる私もまた戦場の空気に肌がひりついて仕方がない。余計な力は抜かなければいけないとは分かっていても剣にふれる指先ばかりが冷えていた。

たまにシドの軽口が飛び出す以外は静かだった道行きはやがて真っ暗な洞窟に入る。三人とも夜目は利くとはいえこの暗さでは流石に支障が出るか。

不意に前を歩いていたクライヴが闇の中へ手をかざす。すると、焚き火の燃え始めに似たくぐもった音、そして小さな魔法の灯火をその手の中に生み出した。戦場でもどこか安心する懐かしい生命の光だ。
「お前、案外器用だよな」
「そうでもない。あんたが煙草に火をつけるのと同じだ」

シドに肩を叩かれていつもの彼に戻ったが、その一瞬の眼差しを私は見てしまった。彼に祝福を与えた不死鳥の横顔をその火を通して彼も懐かしんでいるのだろう。

そういえば、ロザリアに移ってきてすぐの頃。クライヴとまだ幼いジョシュアが眠い目を擦りながら、夜中に部屋を訪れたことがあった。
「どうしたの? 眠れないの?」
「ジル、アンブロシアに会いに行こう」

それは彼らなりの気遣いだったのかもしれないし、単にアンブロシアと遊び足りなかっただけなのかもしれない。眠そうなジョシュアがなんとか生み出した灯火で慣れ親しんだ故郷を離れた心細さは和らぎ、哀れみではないあたたかさが頬にふれた気がした。

それから私たちは小さな明かりを頼りに城下の厩舎へこっそり忍び込む。アンブロシアの白い羽毛に三人で埋もれながら、ロザリアの夜空とそこに受け継がれる星々の物語をクライヴから聞かせてもらったあの夜のことは今でも覚えている。一つ一つが嵐の中で光る篝火のように、絶望に閉ざされた十余年を乗り越えるための希望になったのだった。
「ジル?」

つい考え込んでしまった。思い出の縁から這い上がってみると、あの頃より何倍も逞しくなったクライヴの瞳の奥が心配げに揺れている。深く沈んだ面差しの合間、ふとした拍子に見える気品にあの日の光を見た。

失ったものは多く、彼の生み出したフェニックスの灯火は昔日以上の光を宿している。なのに、頬にふれた熱はクライヴの眼差しのようにやさしかった。

なら、私が守ろう。底に在ってなお失われなかった彼自身を、そのままの彼で生きられるように。
「ううん、なんでもない。さあ、行きましょう」

足に馴染んできたブーツで踏み締める一歩は大きく、彼の隣りに在るために踏み出そう。