祝祭の後で

※冒険者はアウラ・ゼラの男性です。

重なって一つになった二つの足音が白い砂浜を鳴らす。まだ体の奥にあの音が、割れんばかりの歓声が渦巻いている気がする。
「演奏会、すごかったなぁ……」
「ああ、すごかった……!演奏している人数以上の音が聴こえるみたいでさ!」
「そうそう、もう体の芯まで音がビリビリ響いて!」

興奮であたたまった、否、熱くなりすぎた体を落ち着かせようとグ・ラハと散歩に出たはいいが、感想を言い合う内にまた収まりかけていた熱がよみがえりつつある。それくらい楽しくて、終わってほしくなかった。でも、俺たちは一つが終わるからこそ、次の楽しみを迎えられることを知っている。名残惜しさは本当に、心の底から楽しんだからこそ感じるものということも。

数年振りに催された祝祭は有終の美を飾った。

ハイデリン中を旅して生きる冒険者たちが祝祭の名の下に音楽を奏で、故郷の踊りを披露し、英雄譚を言祝ぎ、いつ散るとも知れぬ互いの無事を喜び、美しい星に感謝を捧げるのだ。人の身で到達出来る場所ならば、陸の孤島でも霊峰の頂上、海の奥底、何処であっても祭は生まれる。

俺も本職らしく、予定の日にたまたま訪れていた森都の祝祭に身を投じていた。前回はどうしても体が空かず参加出来ていなかったから、今回こそは全力で楽しみ、楽しませようという決意とグ・ラハを引き連れて。
「花火もいっぱい上がってすっげーきれいだった!あとさ、飛び入りのナイトたちが集まってバーッて光ってさ!」
「ああ、あれは壮観だった!あんなにたくさんのナイトが何処に隠れてたんだろうな?」

俺たちは持て余すほどの『楽しい』という感情のまま、波の音に負けないくらいの大声でげらげら笑って、意味もなく駆け出して。それでも二日間、碌に寝ずに歌って踊って楽しんだ体はすぐに息を切らしてしまい、足がもつれて二人揃って顔から砂浜に沈む羽目になった。仰向けに体を転がし、二本の尻尾で砂を掻いて遊んでいるだけでそれも楽しいと、妙な笑いがふつふつと腹の底から襲ってくるのだから祭の余韻は恐ろしい。
「……なあ……」
「うん」
「誘ってくれてありがとな」
「それは俺の台詞。忙しいのに一緒に来てくれてありがと」
「あんたとの冒険ならいつだって大歓迎だ!」

がばり、と体を起こしたグ・ラハから砂が落ちてきて思わず薄目になった。小さく「悪ぃ」と漏らす声にきっとしなだれきってしまっているだろう耳と、丸まった尻尾を想像して、また笑みが漏れる。
「じゃあ、これからもっと連れ回さないとな」
「っああ!望むところだ!」

月明かりに照らされてくっきりと浮かび上がる彼の輪郭が俺に影を落としている。陰の只中でも爛々と光る紅い瞳に見下されながら潮の名残で湿りはじめた背中をようやく起こして、ぐっと握った拳を差し出した。一瞬きょとんとして眺めていた瞳がまたたき、次の瞬間には朝焼けのような笑みと一緒に、いくらか小さい握り拳が掲げられる。

力強く打ち合った拳の音は波の間に消え、しかし俺たちの内側に大きく、広く響き渡った。