夜明け前
※ナチュラルに同衾しています。
ふと意識が浮上する。
まだ重い目蓋をどうにか持ち上げると、丸まった布団から赤髪が垣間見えた。確か寝る時には半分こしていたはずだが、ほとんど取られてしまっている。寒がりなのは変わらないらしい。
あたたかい塊と、すうすうと聞こえる寝息。平穏が形になれば、きっとこういう顔をしているのだろう。
そっと布団から腕を引き抜いて、目にかかっている赤髪を避ける。古い約束の証が見えないのは残念だが、形の良い鼻筋を間近で堪能出来るので好しとする。無茶をさせてしまっているのだろう、目元に浮かぶ濃いクマを指で撫でる。薄くならないかな、と無心でつついていたら、穏やかな寝息の代わりにくっくと喉奥を震わす息が漏れた。
「ごめん、起こしちゃった」
謝意を示すように、ぺしゃりと畳まれた耳の毛並みを整えてやると、暖を求めるように擦り寄ってくる。普段触らせてくれない、ふわふわやわらかい耳は肌ざわりが良くて、少しだけくすぐったい。
「いいや。楽しそうで、何よりだ……ねむれないのか?」
「んん、ちょっと目が覚めただけ。まだねむいよ」
「そう、か」
水晶公は長年のおじいちゃん役のせいか、私を寝かしつけようと腕を伸ばして一定のリズムで背中を叩いてくれる。とろとろの目を開けていられない彼の手は、たまに肩や頭に激突しながらもやさしくて一生懸命だ。
「今日はおやすみなのだから、ゆっくりしよう……」
クリスタリウムの子どもたちを愛しんできた守る者の手は、慣れた様子で髪をすいて微睡みを誘う。もじょもじょと意味をなさない言葉を子守唄に、少しだけ取り返した布団に潜り込んだ。
「おやすみ、水晶公」