枯れ草と綿毛と潮風と

ガタゴトガタゴト。

お客を乗せたチョコボキャリッジが街道を行く。

舗装されていない砂利道で車輪が跳ねる度、本便唯一のお客である二人の冒険者も体が浮き上がる。紅い目と髪が印象的なミコッテ族と黒い大きな角が目立つアウラ族の二人は、そんな悪路も楽しくて仕方がないというように、時折顔を見合わせて微笑み合っていた。

ふとアウラ族の青年が何かに気付いたように、視線をキャリッジの外へ向ける。
「グ・ラハ、見てくれ」

言われるまま、ほぼ反射的に青年の指差す先を見遣ったグ・ラハの耳が立ち上がる。

その先には、枯れ草とダンデライオンの黄色、時折混じる岩に彩られた丘の風景があった。きっと画家がいれば思わず筆を執っただろう景観に、グ・ラハはほっと一つ息をつく。

西ラノシアを訪れた人の目を楽しませるのは、リムサ・ロミンサと同じ様式で作られたエールポートの美しい街並みだけではない。南から北に向かって小高くなる斜面と、そこに生息するドードーたちの営巣地が作り出す牧歌的な風景もここの名所の一つだ。今日のように穏やかな風が吹く日には、ダンデライオンの綿毛がふわふわと遊んでいて、特にふわりとした毛並みを持つミコッテ族にひっついて止まない。グ・ラハも自身の耳に付いた綿毛を摘みとっては楽しそうに眺めている。
「きれいな場所だな」
「ああ、良い景色だろ。新人の頃はよくあのドードーたちに泣かされたもんだ」
「ふふ、今のあんたじゃ想像も出来ないな」

くつくつ、と笑い合う二人の間にも綿毛のように軽やかで楽しげな空気が流れている。ゆっくりと流れていく風景を眺めて、少しだけ懐かしい話をする冒険の一幕を二人は噛み締めていた。
「エールポートに着いたら、エール飲まないとな。あんたのおすすめ、教えてくれよ」
「いいとも。なんなら、どっちが先に潰れるか勝負するか?」
「乗った!」

カタコトカタコト。

キャリッジの揺れが少なくなり、やがて街に到着することを報せてくれる。向かう先は西ラノシアの中心地、美しい白壁の港町エールポートだ。幻影諸島を臨む波止場には大小さまざまな船が停泊しており、人もモノも多く行き交う活気ある街に二人の冒険者が請けた依頼主がいるという。一体どんな冒険が待ち受けているのか、二人はキャリッジの振動に合わせて跳ねる体ごと鼓動を高鳴らせ、やがて香り始めた潮風を感じていた。