01__幕は下ろされた

一際低い音が響いた後、何も聞こえなくなった。

意を決して開いた扉から新しい風が塔の中へ流れ込んでくる。同時に飛び込んできた光に焼かれた視界が徐々に戻り、ようやく外の様子を窺うことが叶うと、クリスタルに侵された銀泪湖の風景も仲間たちの影もなかった。

見渡す限り、紫色の木々と岩が多く高低差の激しい地形が拡がっていた。遠くに見える丘の上の建物は城だろうか。
「……成功したのか?」

ひとまずモードゥナではないことは確かだ。転移が成功したことへの安堵にふっと息を吐くと嗅ぎ慣れない風の匂いがして、オレは今、遠い異邦へと飛んで、みんなの技術と願いの結晶は確かに一つの実を結んだのだと実感を得た。
「まずは情報収集だな」

感慨に浸っている余裕はない。世界の統合、第八霊災が起きる前にその原因をどうにかしなければ。そのためにも現状の把握は急務だ。

一旦塔の中に戻って、みんなが持たせてくれた荷物の中からフード付の短いマントと特製の弓を引っ張り出して身に付ける。その最中、これから新しい冒険が始まるのだと思うとどうしても胸が躍った。

きっとあいつがいれば、何処に行こうかとそわそわ待ちきれずに瞳を輝かせるだろうな、とかんたんにその姿が想像出来てしまって、こんな状況なのに笑みが漏れる。

大丈夫。あいつの遺した名と物語を標に、みんなの祈りを胸に、オレは歩き続けられる。

もう一度歩み寄った扉を前に、弓を背負い直して大きく息を吸い込む。
「待ってろよ、オレが必ず希望を届けてやるぜ!」