横顔
宙の果てから帰りついて、ただの冒険者であるあの人と何度目かの旅を経た時だったか。ふと気付いた。
あの人は空を見上げて一呼吸の間のみ瞑目し、何言か呟く時がある。一体誰に向けて何を言祝いでいるのか、問おうとした時もあった。しかし、いつも通りの笑みを向けられたら何も言えるはずがない。
ただ、あの人は案外分かりやすい。眼尻がやわらいでいるなら、きっと旅の中で得た良い思い出を、あるいは良い人を想っているのだろう。きっと訊けば教えてくれるだろうけれど、今はまだ静かにしていよう。
何も知らない振りをしてあの人の肩にふれる。いつも通りの笑顔には一筋だけ天気雨が降っていた。